2024年6月に法改正があり、「永住者」の取消についてが追加されました。これは、せっかく取った「永住者」(永住許可)が取り消される可能性があるということになりますが、どのような場合に取り消されるのか、また取り消されてしまった場合どうなるのか、すぐに日本から出国しなければならないのか、多くの永住者の方が気になっていることかと思います。
本編では、出入国在留管理庁から公表されている「永住許可制度のQ&A」を参照しながら、新たに加わった永住許可の取消について解説していきます。
「永住者」になるための要件とは?
永住許可をもらうための要件については、出入国在留管理庁ホームページ「永住許可に関するガイドライン」にて公表されています。
▶出入国在留管理庁「永住許可に関するガイドライン」
ガイドラインに記載されている要件は大きく分けて3つあります。
①素行善良要件、②独立生計要件、③国益適合要件となっています。
1 法律上の要件
(1)素行が善良であること
法律を遵守し日常生活においても住民として社会的に非難されることのない生活を営んでいること。(2)独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること
日常生活において公共の負担にならず、その有する資産又は技能等から見て将来において安定した生活が見込まれること。
(3)その者の永住が日本国の利益に合すると認められること
ア 原則として引き続き10年以上本邦に在留していること。ただし、この期間のうち、就労資格(在留資格「技能実習」及び「特定技能1号」を除く。)又は居住資格をもって引き続き5年以上在留していることを要する。
イ 罰金刑や懲役刑などを受けていないこと。公的義務(納税、公的年金及び公的医療保険の保険料の納付並びに出入国管理及び難民認定法に定める届出等の義務)を適正に履行していること。
ウ 現に有している在留資格について、出入国管理及び難民認定法施行規則別表第2に規定されている最長の在留期間をもって在留していること。
エ 公衆衛生上の観点から有害となるおそれがないこと。※ ただし、日本人、永住者又は特別永住者の配偶者又は子である場合には、(1)及び(2)に適合することを要しない。また、難民の認定を受けている者、補完的保護対象者の認定を受けている者又は第三国定住難民の場合には、(2)に適合することを要しない。
出入国在留管理庁「永住許可に関するガイドライン」
「永住者」になるためには、①素行善良要件、②独立生計要件、③国益適合要件の3つのポイントを満たしている必要があります。
永住許可が取り消される場合について
日本の永住権は、1度取れば7年に1度在留カードの更新をしなければならないというルールはあるものの、更新のために審査が行われることはありませんでした。このため永住許可後に、年金や税金の支払いをしなくなる、という永住者が増えたことが問題視されるようになりました。これは、日本で生活するすべての人にとって不公平なことになるため、在留状況が良くないと評価される永住者については、再評価を行うというルールに変えることが今回の法改正の趣旨になります。
「在留資格の取消し」については、入管法第22条の4において定めがもとよりありました。
▶参考:出入国在留管理庁「在留資格の取消し(入管法第22条の4)」
2024年6月の法改正によって、一度永住許可を受け「永住者」になったあとにおいても、在留状況が悪い場合には「永住許可」が取り消される可能性があることが追加されました。具体的には以下の3項目です
・故意に公租公課の支払いをしないこと
・特定の刑罰法令違反
「入管法上の義務違反」については、在留カードの更新や携帯義務等があります。また、「公租公課」というのは、社会保険料や税金を言います。そして、「特定の刑罰法」は具体的には、刑法の窃盗、詐欺、恐喝、殺人の罪などや自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律の危険運転致死傷など、一定の重大な刑罰法令違反に限られており、いずれも故意犯を対象となっています。
これらについては、今までは「在留資格」の取り消し事由ではありませんでしたが、これからは悪質な場合には取消される可能性があるということになります。
これらについて、出入国在留管理庁のHPにてQ&Aが掲載されていますので紹介します。
参考:出入国在留管理庁「永住許可制度の適正化Q&A」
①在留カード不携帯でも永住許可は取り消しになりますか?
Q8 改正後の入管法第22条の4第1項第8号の「この法律に規定する義務を遵守せず」とは、具体的にどのような場合を想定していますか?うっかり、在留カードを携帯しなかった場合や在留カードの有効期間の更新申請をしなかった場合にも、在留資格が取り消されるのですか?
A 「この法律に規定する義務を遵守せず」とは、入管法が規定する永住者が遵守すべき義務で、退去強制事由として規定されている義務ではないが、義務の遵守が罰則により担保されているものについて、正当な理由なく履行しないことをいいます。
永住許可制度の適正化は、適正な出入国在留管理の観点から、永住許可後にその要件を満たさなくなった一部の悪質な者を対象とするものであり、大多数の永住者を対象とするものではありません。
そのため、例えば、うっかり、在留カードを携帯しなかった場合や在留カードの有効期間の更新申請をしなかった場合に、在留資格を取り消すことは想定していません。
②年金や税金を支払わないと永住許可は取り消しになりますか?
Q9 改正後の入管法第22条の4第1項第8号の「故意に公租公課の支払をしないこと」とは、具体的にどのような場合を想定していますか?病気や失業などでやむを得ず支払ができない場合にも、在留資格が取り消されるのですか?
A 「公租公課」とは、租税のほか、社会保険料などの公的負担金のことをいいます。
そして、「故意に公租公課の支払をしないこと」とは、支払義務があることを認識しているにもかかわらず、あえて支払をしないことをいい、例えば、支払うべき公租公課があることを知っており、支払能力があるにもかかわらず、公租公課の支払をしない場合などを想定しています。
このような場合は、在留状況が良好とは評価できず、「永住者」の在留資格を認め続けることは相当ではないと考えられます。
他方で、病気や失業など、本人に帰責性があるとは認めがたく、やむを得ず公租公課の支払ができないような場合は、在留資格を取り消すことは想定していません。
取消事由に該当するとしても、取消しなどするかどうかは、不払に至った経緯や督促等に対する永住者の対応状況など個別具体的な事情に応じて判断することとなります
③犯罪を犯したら永住許可は取り消しになりますか?
Q11 改正後の入管法第22条の4第1項第9号に規定する刑罰法令違反とは、具体的にどのようなものが該当するのでしょうか?
A ここで規定する刑罰法令違反は、具体的には、刑法の窃盗、詐欺、恐喝、殺人の罪などや自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律の危険運転致死傷など、一定の重大な刑罰法令違反に限られており、いずれも故意犯を対象としています。
④交通違反で永住申請が取り消されることはありますか?
Q11(つづき) 過失により交通事故を起こした場合、道路交通法違反で処罰された場合や罰金刑に処せられた場合も対象になるのでしょうか?
A(つづき) 交通事故を起こして過失運転致死傷の罪で処罰された場合は、本号の対象とはなりません。
また、道路交通法は、取消事由として規定された刑罰法令には含まれていませんから、道路交通法違反により処罰された場合は、そもそも対象となりませんし、処罰の内容も拘禁刑に処せられたことが要件となっていますから、罰金刑に処せられた場合も、対象とはなりません。
「永住者」が取り消された場合について
⑤すぐに日本から出なければなりませんか?
取り消し事由に該当した場合、すぐに日本から出国しなければならないか気になるところかと思います。これについてもQ&Aに記載があります。
今回の改正では、取消事由に該当する場合であっても、直ちに在留資格を取り消して出国させるのではなく、当該外国人が引き続き本邦に在留することが適当でないと認める場合を除き、法務大臣が職権で永住者以外の在留資格への変更を許可することとしています。
在留資格を変更する場合に、具体的にどのような在留資格とするかは、個々の外国人のその時の在留状況や活動状況に鑑み、引き続き本邦に在留するに当たって最適な在留資格を付与することとなりますが、多くの場合、「定住者」の在留資格を付与することとなると考えています。
⑥家族の在留資格はどうなりますか?
「永住者」を取り消されてしまった家族については、「家族である」ということを理由だけで、在留資格の取消や、他の在留資格への変更の対象になるわけではありません。
ただし、「永住者の配偶者等」の場合などで、「永住者」に紐づいた在留資格の場合は変更しなければならない場合があります。
まとめ
以上、永住許可の取消について解説しました。
今回の法改正は、永住許可後に在留状況が不良になる方がいることを受けて、あまりに不適切な場合に永住許可を取り消すことを目的に制定されました。重大な犯罪な場合には日本から出国しなければならない場合もありますが、永住者の方の中には日本での生活が長く日本以外で生活するのは困難な方もいることから、無条件に国外に退去させられるのではなく「定住者」などの別の在留資格に変更することとなっています。適切な在留を続けている多くの外国人の方であれば、心配する必要はありません。