「日本人の配偶者等」や「永住者の配偶者等」「家族滞在」などの結婚を理由に申請をする在留資格(ビザ)では、基本的には同居をしていることが前提になります。働き方や価値観の多様化はありますが、別居をする場合には合理的な理由が必要で、慎重な対応が必要になってきます。結婚生活を続けるうえで別居を希望する場合には、それぞれに事情があるかと思います。理由次第では更新ができる場合もあります。本編では、別居が望ましくない理由についての説明と認められる可能性があるケースについて解説します。
結婚系の家族ビザの在留資格は同居が前提
結婚系の家族ビザ(例えば「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」「家族滞在」)は、同居をしていることが前提になります。ビザの許可をもらった時は同居をしていても、様々な事情から別居をしている場合には、在留資格の更新ができない場合などの場合があります。
入管や裁判所が定義をする「結婚生活」について
価値観や働き方の多様化、また離婚を検討しているなどの様々な事情で別居を検討する夫婦も少なくないかと思います。「日本人の配偶者等」や「永住者の配偶者」「家族滞在」では、適法な婚姻関係が継続していることが一つの要件で、つまり「偽装結婚」でないということばかりに着目されがちですが、「別居」についてはまた別の問題になります。
過去には、別居と配偶者ビザへの変更や期間の更新の申請が不許可になり、それについての裁判が行われました。裁判所での判決は、その後の審査の考え方の基礎になるものになります。
「日本人の配偶者等」や「永住者の配偶者等」という在留資格では「配偶者(妻・夫)として活動を行う」ために在留が許可されるわけですが、この「配偶者(妻・夫)として活動を行う」ということの定義について裁判でこのように判決が出ています。
(中略)日本人の配偶者の身分を有する者としての活動を行おうとする外国人が「日本人の配偶者等」の在留資格を取得することができるものとされているのは、当該外国人が、日本人との間に(中略)共同生活を営むことを本質とする婚姻という特別な身分関係を有する者として日本において活動しようとすることに基づくものと解される。ところで、婚姻関係が法律上存続している場合であっても、夫婦の一方又は双方が既に上記の意思を確定的に喪失するとともに、夫婦としての共同生活の実体を欠くよう
平成14年10月17日 最高裁判所判決 在留資格変更申請不許可処分取消請求事件
になり、その回復の見込みが全くない状態に至ったときは、当該婚姻はもはや社会生活上の実質的基礎を失っているものというべきである(最高裁昭和61年(オ)第260号同62年9月2日大法廷判決・民集41巻6号1423頁参照)。
日本人との間に婚姻関係が法律上存続している外国人であっても、その婚姻関係が社会生活上の実質的基礎を失っている場合には、その者の活動は日本人の配偶者の身分を有する者としての活動に該当するということはできないと解するのが相当である。そうすると、上記のような外国人は、「日本人の配偶者等」の在留資格取得の要件を備えているということができない。
この判決を受けて、入管においても審査要領内でも、「夫婦は法律上の婚姻関係」だけでは足りず「結婚生活が、同居のもとお互いに助け合い支え合うものであること」であることが審査の対象であることが書かれています。
住民票が一緒なら更新は可能か
「別居をしている(検討している)けれども、住民票が一緒であれば大丈夫ですか?」
これはよく聞かれる質問ですが、よくない状態であると言えます。実態に合っていない申請をすることは「虚偽申請」になります。虚偽申請は「在留資格等不正取得罪(入管法70条1項)」または「営利目的在留資格等不正取得助長罪(入管法第74条の6)」という罪となり、3年以下の懲役・禁固若しくは300万円以下の罰金又はそれらが併科されます。そしてこれに加えて、在留資格の取消事由となり、出国するか、もしくは退去強制事由に該当します。
「入管は実態まで調査しないからばれないのではないか?」
ともよく聞かれますが、一度ついた嘘はその後の生活や申請で必ず矛盾を起こします。そして必ずばれるものです。別居をしたい理由にもよりますが、特に離婚を検討している場合などで婚姻関係が破綻している場合は、引き続き日本で生活をつづけるのであれば、在留資格の変更などを念頭に次の準備をするべきといえます。
別居をするなら日本にはもういられない?
「日本人の配偶者等」や「永住者の配偶者等」「家族滞在」といった在留資格から別の在留資格に変更することは制度上可能ですし、変更出来れば引き続き、日本で生活することは可能です。
これは別居の理由にもよりますが、場合によっては別の在留資格に変更したほうがよい場合もあります。
例えば、夫婦ともに働いていて仕事の都合や価値観で長期間別居をしたい場合など、就労ビザの要件を満たしている場合には就労ビザに変更したほうがよい場合もあります。また、離婚をした場合、それまでの日本での結婚生活が長い場合や、(夫婦間の)日本国籍のお子さんを日本で養育・監護する場合などには「定住者」という在留資格が認められる場合があります。
やむを得ない事情がある場合は別居が認められる場合がある
やむを得ない事情がある場合や、別居をする「合理的な理由」がある場合は、在留期間の更新が認められる場合もあります。
別居が認められる可能性がある例
以下は在留期間の更新をした際に「合理的な理由」があるとして、在留が認められる場合がある例です。「日本人の配偶者等」や「永住者の配偶者等」の審査では、生活の状況や収入、法令遵守などの観点から審査が行われるため、以下に該当する場合でも、不許可になってしまう場合はありますので、「日本人の配偶者等」のままで別居を検討されている場合には家族ビザを取り扱っている行政書士や弁護士などに相談されるのがよいでしょう。
・里帰り出産による一時的な別居
・親の介護による一時的な別居
・離婚調停や離婚裁判中
・配偶者から暴力を受けている場合
仕事の都合による一時的な単身赴任の場合、「単身赴任をせざるを得ない理由」が必要になります。例えば子どもの教育のためや親の介護など、別居の理由が「転勤」だけでは基本的には足りないと考えたほうがよいでしょう。
介護や里帰り出産や入院など、一時帰省をしていた場合は、夫婦関係が破綻していなければ「合理的な理由」として認められることはあります。配偶者ではなく「子」の場合で、大学進学などをきっかけに独り暮らしをする場合も別居は認められる場合もあります。いずれにしても、在留期間を延長する際には、申請書類に加えてしっかりとした説明書を提出されたほうがよいです。
※別居をする前に管轄入管で相談をされることをお勧めします。
更新が認められても短い在留期間になる可能性も
合理的な理由があっても別居をしている期間が長い場合は、更新ができた場合でも短い在留期間になることはあります。
例えば、「日本人の配偶者等」や「永住者の配偶者等」の場合で、例えば離婚調停中の場合や離婚訴訟中の場合は、「6ヶ月」の在留期間が付与されるとなっています。
まとめ
以上、「日本人の配偶者等」や「永住者の配偶者等」「家族滞在」などの結婚を理由に申請をする在留資格(ビザ)で在留する人が、別居をすることで出る影響についてと、別居が認められるケースについて説明しました。
入管は、基本的には夫婦(家族)は同居をしていることを前提に家族のビザを認めます。別居をする場合、様々な理由があるかと思いますが、理由次第では他の在留資格に変更するほうが、安定して日本にいられることもあります。特に離婚を前提に別居をする場合で日本で継続して生活をしたい場合には、その他の在留資格(例えば就労ビザや「定住者」)などを検討されてください。