例えば、海外に移住した日本人の方がその国や外国の国籍を取得すると日本国籍を喪失し、元日本人となりますが、人生のターニングポイントに合わせてまた日本に移住したいという方は少なくありません。元日本人の方であっても外国籍であれば、日本で生活するためには在留資格(ビザ)が必要になります。本編では、元日本人の方がこのようなケースで申請される「日本人の配偶者等」や元日本人の方の家族(妻・夫・子)が申請される「定住者」について解説します。
元日本人であっても日本で生活するためには在留資格が必要
例えば日本生まれの日本人だった方で、現在は海外に移住し外国籍を取得された方の場合でも、日本に移住する際には、日本でのステータスは「外国籍」になりますので、在留資格は必要になります。
日本で生活するための在留資格を検討する
日本で生活するためには、活動目的や身分にあわせて適切な在留資格を選び取得する必要があります。この場合、多くの方が「日本人の配偶者等」で入国されています。
外国籍の取得をすれば日本国籍は喪失します
そもそも、日本は基本的には二重国籍を認めていませんので、外国籍を取得すれば日本国籍を失います。このため、元日本人の方であっても、例え日本のパスポートをまだ持っている場合でも、外国籍である限り、在留資格(ビザ)が無ければ日本で生活することはできません。
どの在留資格で入国するかを検討する
在留資格(ビザ)は、ご自身の入国目的に合わせて要件を満たしていれば取得することができます。
例えば、大卒の方が(卒業した国は問われません)、日本の企業に就職する場合、主にホワイトカラーと呼ばれるような職種でしたら「技術・人文知識・国際業務」という在留資格を検討します。また、日本で起業する場合には「経営・管理」という在留資格が当てはまります。これらの就労ビザは、活動内容に着目した在留資格になり、要件を満たしていれば元日本人の方の場合でも選択可能です。
日本への移住を検討される元日本人の方の中には、日本人の「子」である場合も多いかと思います。そうすると、「日本人の配偶者等」という在留資格(ビザ)が選択できます。この在留資格(ビザ)は、先ほど説明した活動内容に着目したものとは違い、身分に着目したビザであることから活動制限や就労制限はありません。つまり、サラリーマンになることも、起業をすることもできれば、または無職であることも問題ありません。
このため、日本人の子である元日本人の方の多くは「日本人の配偶者等」を選んで入国されるケースが多いようです。一方で「元日本人」の方が「日本人の子」でない場合には、その他の在留資格について検討をすることになります。
在留資格「日本人の配偶者等」の要件について
・実子
・特別養子縁組をした養子
日本人の「子」の場合の要件として、日本人の子として出生した実子か日本人の特別養子(一般の養子は対象になりません)が対象になります。なお、親の国籍は出生時点に日本国籍であればよいので、申請日時点の国籍は問われません。また、申請日に亡くなっている場合であっても、その他の要件を満たしてれば申請は可能です。
元日本人の家族の在留資格について
同様に、元日本人の家族についても、それぞれが要件を満たしている在留資格を取得し日本で生活をすることになります。選択できる在留資格は配偶者(妻・夫)と子によっても変わります。
配偶者(妻・夫)の在留資格について
基本的な考えとしては、元日本人の方の場合と同じで、例えば、目的に合った・要件を満たしている就労ビザなどの活動に係る在留資格(ビザ)を選ぶことも可能ですが、「元日本人の方の配偶者(妻・夫)」が選択ができる在留資格があります。元日本人の方が「日本人の配偶者等」で在留している場合には、在留資格「定住者」(告示5号イ・日系2世の配偶者)が該当します。この「定住者」は活動制限や就労制限はない在留資格になります。
なお、元日本人の方の「日本人の配偶者等」とその配偶者の方の「定住者」(告示5号・日系2世の配偶者)の申請は同時にすることができ、お2人そろって許可が出れば一緒に入国ができます。
子の在留資格について
子についても考え方は同じで、目的に合った・要件を満たしている就労ビザなどの活動に係る在留資格(ビザ)を選ぶことも可能ですが、「元日本人の方の子」が選択ができる在留資格があります。
まず、出生時点に親が日本国籍を取得していた場合は「日本人の配偶者等」が選択できます。前述の通り、「出生時点」に親のどちらかが日本国籍であれば要件を満たしていすし、状況にもよりますが、日本で生まれた方であればご自身も日本国籍であったのではないかと思います(子も元日本人)。
次に、出生時点では親が日本人で無かった場合は、在留資格「定住者」(告示3号・日系3世)が該当します。この「定住者」も活動制限や就労制限はない在留資格になります。
なお、該当する場合は以下のようなケースになります。
・元日本人(日本人の子として出生したものに限る)の日本国籍離脱後の実子
・元日本人の日本国籍離脱前の実子の実子である孫
将来、日本国籍の再取得や永住申請をするためには?
元日本人でも帰化や永住を希望する場合には、それぞれの要件を満たす必要があります。
日本国籍の取得(帰化申請)をしたい場合
帰化申請では、国籍法5条で定める(いわゆる)「普通帰化」のほかに、日本人の家族がいる場合や、日本に特別な地縁がある方の場合には、「簡易帰化」に該当し一部の要件が緩和される場合があります。
「元日本人」の場合も「簡易帰化」に該当する場合があります。
「元日本人」の帰化申請・国籍法8条について
「元日本人」の帰化については国籍法8条に定めがあります。
第八条 次の各号の一に該当する外国人については、法務大臣は、その者が第五条第一項第一号、第二号及び第四号の条件を備えないときでも、帰化を許可することができる。
国籍法 第八条
一 日本国民の子(養子を除く。)で日本に住所を有するもの
二 日本国民の養子で引き続き一年以上日本に住所を有し、かつ、縁組の時本国法により未成年であつたもの
三 日本の国籍を失つた者(日本に帰化した後日本の国籍を失つた者を除く。)で日本に住所を有するもの
四 日本で生まれ、かつ、出生の時から国籍を有しない者でその時から引き続き三年以上日本に住所を有するもの
上記のように、日本人の実子・養子であったり、以前に日本人であった人で日本に住んでいる人の場合は、普通帰化と比較して一部要件が緩和される可能性があります。国籍喪失の原因は問いません。自己の志望によって外国籍を取得した場合や日本国籍の不留保によって失った場合でも大丈夫です。
元日本人の帰化の要件について
「元日本人」の方の場合は、「日本と密接な血縁・地縁関係がある」という理由で、「普通帰化」に必要な要件のうち、一部の要件が緩和されます。
要件が緩和されるというのは、審査が緩くなったり、必要な書類の一部が少なくなるわけではありません。密接な血縁・地縁関係がある人の場合は、確認されるポイントは4つです。
- 素行が善良であること
- 日本国籍の取得によって、母国の国籍を離脱できる
- テロリストや反社会的勢力ではない
- 日本語能力に問題がない
つまり、元日本人の方の場合には、「日本に住所を有していて」かつ上記4つのポイントを満たしていれば帰化申請が許可される可能性があるということになります。
※ただし、法令にもある通り日本に帰化した後日本の国籍を失つた者を除かれます。
永住許可申請をしたい場合
永住許可申請をする場合、最短で1年の在留で条件を満たします。ただし、その時点で持っている在留期間が「3年」「5年」でなければならず、元日本人で合っても当然に容易にもらえるものでは無いため、すぐに申請できない場合もあります。
一方、帰化申請でも近年では法務局内部の基準が厳しくなっているため、「3年」「5年」の在留期間を持っていないとなかなか許可されなくなっております。
3年以上の在留期間を持ったうえで、国益適合要件といわれる「犯罪を犯していないこと、公的義務(特に納税)を適正に履行していること」「公衆衛生上の観点から有害となる恐れが無いこと」といった条件を満たしていれば永住が許可されることになります。
▶出入国在留管理庁:永住許可に関するガイドライン
在留資格申請をして入国するまでの流れ ~「日本人の配偶者等」の場合~
日本人の実子である元日本人の方が在留資格「日本人の配偶者等」を申請することを想定して、流れを解説します。
入国までの流れ
海外にいる家族(妻・夫・子)を日本に呼ぶ場合の手続きを「在留資格認定証明書交付申請」といいます。この手続きは、出入国在留管理局で呼ぶ側(日本人)が代理人となって手続きを行います。もし、夫婦ともに海外にいる場合には、日本人の親族が代理人となって手続きをすることができます。
申請のためには日本にいる親族の協力が必要
「在留資格認定証明書交付申請」は入管で行う手続きになりますが、申請手続きには決まり(申請できる人、申請場所、必要書類など)があります。
入管で申請ができる人
海外から呼び寄せる場合には、基本的には申請人(外国人)を招へいする本邦に居住する日本人か、日本人の親族が代理人として申請を行うことができます。申請人の居住予定地か親族などの申請代理人の住居地を管轄する入管に申請に行きます。申請人が16歳未満の子どもの場合は、法定代理人(父母等)が代理人として申請することができます。
いずれの場合にも夫婦そろっての同時入国は条件が揃っていれば可能です。
一方、届け出を行っている「取次者」であれば、申請を代わって行うことができます。「取次者」の例として、行政書士、弁護士が該当します。
※行政書士に依頼することもできます。
基本的に申請は申請人の居所を管轄する入管、もしく外国人や申請代理人の居住地を管轄する入管で行います。
身元保証人について
元日本人とその配偶者であっても、申請に際して身元保証人が必要です。日本人もしくは外国人の場合は永住者や特別永住者の方がなれますが、「日本人の配偶者等」「定住者」の場合には、配偶者(妻・夫)や扶養者(親など)などが保証人になることになります。
保証する内容は「1.滞在費」「2.帰国旅費」「3.法令の遵守」ではあり、法的な強制力がないものとはなっておりますが、一定の責任は伴います。
日本を長く離れていて移住される方にとってはハードルになる場合もあります。「身元保証書」について以下の記事で詳細に解説しております。
必要書類について
子の場合 |
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・在留資格認定証明書交付申請書/在留資格変更許可申請書 ・証明写真 ・申請人(日本人)の親の戸籍謄本又は除籍謄本(全部事項証明書) ・(日本で出生した場合)出生届受理証明書/認知届受理証明書 ・(海外で出生した場合)出生証明書/認知に係る証明書 ・(特別養子縁組の場合)特別養子縁組届出受理証明書 等 ・日本での滞在費用を証明する資料 ・親(日本人)の身元保証書 |
※上記のほかに、生活について補足で説明する書類や過去の在留状況を示す書類を出す場合もあります。上記の内容は最低限の書類になります。
まとめ
以上、元日本人の方やその家族が日本に移住する際に申請することが多い在留資格について解説しました。多くの場合で元日本人の方は「日本人の配偶者等」をその家族は「定住者」を申請します。将来的に、再度、日本国籍を取得したい場合や、永住許可をもらいたい場合には、すぐに要件を満たさないことが多いので、適切な在留を継続してその条件が整う日を待つことにはなります。